大林 弘道

弊社では収益物件の取引に携わって10年を数えるまでとなりました。
(※スター・マイカ株式会社の仲介セクション時代を含みます。)
区分マンションの売買仲介を中心に1,200戸を超える取引を通じて、これまでの振り返りと、今後の展望についてまとめましたのでご報告させていただきます。

文:大林 弘道 (スター・マイカ・アセット・パートナーズ株式会社)
これまでに200名を超えるお客様の投資サポートをさせて頂くなか、30社以上の法人(資産管理)会社設立をお手伝いさせていただいております。
(※文中で言及している利回りは、都心5区の築浅コンパクトマンションをイメージしています。
実績データ(収益物件成約動向)
首都圏、20㎡超の区分マンション(駅徒歩12分以内)のものにつき、成約時点で築後15年以内の物件を対象とし、 四半期ごとに表面利回りを単純平均計算で求めたものです。実績数が一定数ある2007年以降のデータをグラフにしています。
N=300 【グラフA】
グラフ1:賃料利回り推移
これまでを振り返って

経済的なイベントに照らし、その時代の収益物件の取引がどのようであったかを振り返ってみます。

ファンドバブル隆盛期(2006-2008年)
ITバブル崩壊後に行き場を失っていたマネーが、投資ファンドの拡大により吸い上げられていき、不動産投資に向かう資金を創出していった時代です。
新築マンションの完成前に、ファンドが一棟買いをしてしまうような例も見られ、不動産全般の価格上昇を導くこととなりました。 新築マンションの価格上昇を新価格・新新価格などと命名されてもいました。
個人の不動産投資においても、ノンリコースローンやDCF法などのワードが定着していくとともに、特に一棟物件に対し、個人の与信に依らない、物件の収益力に着目した融資がなされるようになりました。 ただ、融資額こそ物件価格以上(フルローン)出たものの、その返済年数は物件の経済的耐用年数に縛られ、長くありませんでした。
当社においては、区分マンションを中心に、投資ファンドの隆盛と時を同じくしたキャッシュリッチな個人投資家が、ローンを利用せずに収益物件を取得するケースが少なくなく、不動産価格の上昇とあいまって、成約利回りは低くなっていきました。 【グラフA-1】
グラフA-1
グラフB-1
リーマンショックとその後遺症期(2008-2010年)
ファンドバブル期に不動産を取得した投資ファンドなどはリーマンショックによりファイナンスが根詰まり、処分を余儀なくされたことで売り物件数が急増、不動産価格は下落していくこととなります。
同様にキャピタルゲイン狙いで物件を取得してきた個人投資家も、雇用環境の変化などを受け保有物件の売却を強いられることになり、価格は下落、成約利回りは一気に上昇することとなりました。
【グラフA-2】
芝浦アイランドのタワーマンションなどはその顕著な例で、一時期相当数の売物件がマーケットに滞留したほどです。 新興デベロッパーがファンド組み入れ用に開発した案件が頓挫する事例も増え、これらはファンド間で引き取られながら、最終的に区分登記されて個人投資家に拾われていくことになりました。
当社においては、上記の結果、比較的良質な区分マンションがマーケットに出現することとなったため、買い余力のある個人投資家によって取得が進み、取引件数は増え、成約利回りもだんだんと低下傾向となっていきました。【グラフB-2】
グラフA-2
グラフB-2
デフレ経済と金融緩和の時期(2010年-2012年)
デフレが日本経済停滞の元凶と言われ、民主党政権下で金融緩和によるデフレ解消に取り組みがなされたものの、効果がなかなかあらわれない、いわゆるデフレスパイラルの時期です 企業業績も好転せず、設備投資等の資金需要がない中で、ダブついたマネーは国債か住宅ローンに向かうことになり、ずいぶんな低金利時代に入っていきました。 これは個人の住宅購入を後押しし、ひいては収益用物件に対する融資へも波及していきました。
中古ワンルーム投資を提案する会社が急激に増えたのもこの時期です。
平成バブル期の中古ワンルームを買取再販するスキームではあるものの、高利回りをうたえるのは魅力だったのです。さまざまな年金問題がある中、不動産投資が私設年金となるセールスも支持されました。
当社においては、資産価値が高い物件の方が結果的にトータルリターンが高くなるという経験値を得た個人投資家が、築浅で広め(30㎡~)の物件を追加取得、成約件数・利回りとも堅調に推移していきました。
グラフA-3
グラフB-3
2013年以降の状況と今後の投資スタンス

昨今の不動産マーケットの上昇ならびに、個人投資家の増加をうけて、成約利回り(表面利回り)は6%を切る水準をうかがっています。

グラフA-4 アベノミクスと黒田日銀総裁の大胆な金融緩和政策により、株高・円安が実現され現在にいたっています。 一方、それらが賃金上昇へ連動されないままであるためデフレ経済からの脱却ができたかというとまだ疑問が残るでしょう。8%への消費税増税を消化しきれなかったのもその表れかと考えられます。
不動産マーケットにおいては、インフラ整備、主要エリアの再開発、東京オリンピック開催にむけた需要拡大が見込まれるため、緩和マネーが流れ込んできています。 社会的ニーズを受けた物流基地やヘルスケア関連施設の開発も盛んで、このセグメントで新規リートが設立されるなど注目されているところです。
区分マンションにおいては、株高等による資産効果、新築物件の供給減少、土地・資材・労務費の三高に引き上げられる形で価格が上昇しており、居住用のみならず、投資用マンションにおいてもそのトレンドはしばらく続くと考えています。 加えて、台湾・香港をはじめとした外国人投資家の流入も見過ごせない状況にあります。 急激な円安、自国の経済的・政治的状況、日本(東京)に対する信頼・憧憬から、日本への不動産投資が過熱しており、都心の億ションや投資用物件の価格を押し上げている状況です。
また、2015年の税制改正をにらんだ相続税対策として、現預金を不動産に換価する動きや遊休地に賃貸用不動産を建設する動きが増え、これも不動産価格押し上げの要因となっています。 これら資産課税強化の動きは今後も続くと考えられるため、相続対策としての不動産取得は増えていくと思われます。

金利推移(長期金利とフラット35) このように多面的な要因から不動産価格は上昇しているものの、賃料には価格硬直性があるため、必然的に成約賃料利回りは低下傾向にあります。
特に都心立地の築浅物件については表面利回り6%を切る水準までになっています。【グラフA-4】
ただ金利水準がジリジリと下がっていく中で【グラフC】調達側の投資用ローンにおいても条件緩和が見られており、適用金利でいうと年々0.1~0.2%ずつ下がっている印象です。これはイールドギャップ(賃料利回りと調達金利の差)で見れば、不動産価格の上昇がありながらもの、投資効率の悪化につながってるわけではないことを意味しています。
金利面だけでなく、融資割合(95%→100%)や、返済年数の緩和(30年→35年)も見られるため、キャッシュフローは良くなっている場合も出てきています。前述のファンドバブルのころと比べた場合の大きな違いと言えるでしょう。 冷静に考えて、大胆な金融緩和がインフレを目指し、貨幣価値そのものが希釈されていくのであれば、不動産は実物資産であり、かつ賃貸収益を安定的に享受できる投資対象として、しばらく底堅く推移していくものと考えます。
売物件の供給においても、景気回復局面にあって、ネガティブな売却事由が少ない状況がつづけば、今後も収益不動産の需給はひっ迫しながら、その価格はジリジリと切り上げていくでしょう。
利回り水準の展望

今後の成約賃料利回りですが、表面5.5%位の水準まで低下していくと考えています。 これは管理費や固定資産税等の保有コストを控除した後のネット利回りがおおよそ4.5%位となる計算です。

不動産価格の上昇との相関
首都圏新築マンション価格推移 不動産の価格形成においては取引事例比較法による算出がいまだポピュラーであり、本来、収益還元法のウェイトが大きくなるべき収益不動産においても、取引事例比較法によるアプローチ、つまり実需取引価格の動向にひきづられてしまう傾向にあります。
東京カンテイ等によると、全体の供給数が少ない中、新築マンションは5~10%価格上昇しており、中古マンションもこれに牽引される形で上昇を始めています。
特に立地面で良いものは新築マンションに追随する形で、同様の5%~10%の幅で上昇すると考えています。
賃料には硬直性があるため一定として計算すると、価格の上昇率の対数が利回りの低下率と導くことができ、6.0%の表面利回りの現行水準からおおおよそ5.5%程度へ低下していくと考えています。
【グラフD
投資キャッシュフローとの相関
1,000万円の物件をフルローンで購入した場合、年間の返済額は約45万円となります。( 一般的な融資条件:金利2.0%、返済期間30年とした場合)この時賃料のみでローンを返済するためには、年間45万円の賃料収入、すなわちNET利回り4.5%以上の物件が求められることになります。
金利を支払いながらローン元本を減らしていくことはできますが、インカムゲインを得られないこのような組立では投資妙味が薄くなってしまうのは事実です。実際には自己資金を一定額入れればキャッシュフローは確保できますし、 節税目的や年金代わりの不動産投資など、キャッシュフローを必要としない場合もありますが、ブレークイーブンとなる、このNET利回り4.5%(≒表面利回りで5.5%)のレンジはひとつの指標になると考えています。
リートとの相関
利回り推移 現物不動産投資は、よくリートと比較されます。
【グラフE】はリートの平均分配金利回りを、【グラフA】に重ねたものですが、両者のスプレッドがここにきて開いてきています。
現物不動産投資のリスク(空室リスク等)は確かに存在しますが、一方で現物不動産はファイナンスによってレバレッジを効かせる利点もあります。
現物不動産とリート間のこのスプレッドは一定の均衡を保ちながら推移していくと考えられますので、今後も現物不動産の期待利回りはリートに寄せていくような形で下落していくと考えています。

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