大林 弘道

弊社では収益物件の取引に携わって10年を数えるまでとなりました。
(※スター・マイカ株式会社の仲介セクション時代を含みます。)
区分マンションの売買仲介を中心に1,300戸を超える取取引と顧客の声をもとに、今後の展望についてまとめましたのでご報告させていただきます。

文:大林 弘道 (スター・マイカ・アセット・パートナーズ株式会社)
これまでに300名を超えるお客様の投資サポートをさせて頂くなか、30社以上の法人(資産管理会社)設立をお手伝いさせていただいております。
2013年以降の不動産市況
アベノミクスと黒田日銀総裁の大胆な金融緩和政策の連続で、株高・円安が実現され、経済指標は好転、景況感は改善していきました。
企業は最高益を出し、人手不足にも悩んでいるはずなのですが、賃金上昇への連動がみられず、消費が伸びない状況です。
2%のインフレターゲットの実現も怪しくなったため、消費税8%→10%への改定も先送りされることになりました。
設備投資も同様、5年先の日本経済に確信が持てずにいるのでしょう、過去に巨大投資に踏み切った企業が苦境にあえぐ例を横目に、各企業は留保金を増やすにとどまっています。 ここにきて中国経済が失速し、それを原因とする資源安がグローバル経済を揺らしている状況もあり、経済状況は不透明で、方向感に乏しくなっています。 不動産マーケットでも、国内企業の好業績が賃金上昇につながっていないために、企業と個人との間にギャップが出てきている印象で、オフィスやホテル再開発は活況であるものの、マンション部門が足踏みしている状況に表われています。

マンション開発のセクションでは、依然、労務費・建築資材・地価のトリプル高に苦心しています。
個人の購買力がついてこないので強気な価格設定もできず、新築物件をマーケットへ供給できていないのです。
流通マーケットも新築マンションが品薄なため、中古マンションの在庫が消化し、物件数が極端に減っている状況です。実際、不動産業者間の物件登録システム(レインズ)に見てとれます。 成約登録の物件価格が、新規登録の物件価格より上回る場面が2014年2Qから続いてきたのですが価格上昇に買手がついてこれなくなったためか、2015年3Qにおいて、成約物件の物件価格が頭打ちとなり【グラフA①】、在庫数も増加に転じているのです。【グラフA②】
オリンピックに向けて東京の不動産はまだまだ上昇するかのように言われていますが、成約単価や利回り水準がリーマンショック前の数字を超えてきた状況をみると、ピークアウトが近いとも言ってもいいかもしれません。
東京都中古マンション登録状況(首都圏レインズ)
グラフA-①
グラフA-②
海外投資家と相続税対策の状況
不動産取引のロングテール 昨今の不動産価格押上げ要因であった、「外国人の買い」はどうでしょう。
アジア圏に加えて、中東や北欧の政府系ファンドの日本への不動産投資がその存在感を示してきているようですが、やはり主力は台湾、香港をはじめとするエリアからの投資になるでしょう。
彼らの日本への憧憬と、所有権を持つことの魅力からくる購買力は、円安がつづく限り、堅調と考えられます。
ただ、従来より物件選別が振れてきたような印象を受けています。ハイエンドの物件を志向する層は、まずアドレスが重要で、ベイエリアであっても江東区は嫌気される傾向にあります。 海が見える(もしくは皇居の近く)、2000年以降の建築で、風水学的に間取りがよくて、大手財閥系デベ&メジャーゼネコンの物件に絞られてしまうと、そもそも物件がありません。海外からの投資が不動産取引のボリュームゾーンとは少し異なる次元で取引がされているものと考えます。

一方、資産課税強化の動きに対抗した、相続対策としての不動産取得はどうでしょうか。
現場に身を置いていますと、資産組み換えや、金融資産から不動産への換価はたしかにあるのですが、具体的な売買につながる件数はそれほど多くありません。 ただ、その少ない案件において動く金額が大きいのです。 相続増税は将来的な問題であり、それを心配する相続人からの相談は確かに少なくないのですが、実際は「被相続人にはまだ話していない」というケースが大半です。 相続税対策が不動産取引のボリュームゾーンへ移行するには今しばらく時間がかかると考えています。海外からの買いと、相続税対策による買いは、これまでのところ「ロングテール」の分布となっていると考えています。【図B】
この2つの需要がロングテールを解消し、ボリュームゾーンにどの程度までインパクトを与えていくかが、今後に向けてのポイントとなるでしょう。
価格動向予測
将来の価格動向を考えるにあたっては、現在の不動産価格が形成されていく過程を、2つの要素に因数分解することで解が見えてくると考えています。
右図で表現されるような、ここ数年の価格上昇曲線Cは、需給の要素①と金融の要素②の2つによって構成されているということです。

①需給の要素 ・・・ 金融政策以外のアベノミクス(財政出動や成長戦略、規制緩和など)が機能せず、景気改善、賃金上昇が実現しなければユーザーの購買力引き上げにつながらないとみるのが自然です。 需給バランスが引き上げる不動産価格上昇はあまりないと考えられます。【図C①】年収の10倍が天井といわれているマンション価格もその水準まで来ています。

②金融の要素 ・・・ 緩和策が出されるたびに、消費や設備投資に向かえなかったマネーが余剰し、通貨価値がどんどん下駄をはかされている(グラフでいうと価格の軸が下方にズレる)状況です。
緩和期待の流れが続くうちは不動産は実物資産として相対的な価格上昇がある【図C②】と考えていいのですが、金融政策が限界を迎えつつあるのであれば、官製相場が作り上げた不動産価格の伸びしろは限られてくるでしょう。 この先、不動産がもう一段、価格上昇するかどうかは金融政策のいかんに依拠すると考えます。極端にいえば、欧州の金融政策のようにマイナス金利に突入するようなことでもあれば、不動産価格は踏みあげることになるでしょう。
売りどきか、まだ買いか
さて2016年、収益不動産は買いでしょうか、売りでしょうか。
現在、各金融機関の不動産融資の姿勢は変わらないように見受けられますが、ここしばらくは金融情勢を注視する必要があるでしょう。
銀行の業種別貸出残高【グラフD】をみると、不動産業向け貸付は徐々にその伸び率をあげており、これがつづくと調整局面に入るのでしょうが、反転にいたる兆候は今のところ見られません。
足元でも、個人向け不動産投資ローンの金利は依然低い水準にあり、変動金利よりも、2年固定、3年固定金利の方が低い状況です。これは各行が短期的にはもう一段の金利下落があるとみているためと考えられます。
一方で、不動産価格の上昇により、賃料利回りが下がってきており、株式の平均配当利回り等とのイールドギャップが小さくなってきています。【グラフE】
不動産投資のリスクプレミアムを考えるとこれ以上の価格上昇余地は限られてくるでしょう。
また2010年の安値圏で物件を購入した人は、2016年1月で保有5年超の長期譲渡となり、今まで足かせであった譲渡益課税が約40%から約20%へ下がるため、利益確定の売りが増えると予想されます。2009年、2010年の不動産取得促進税制(2015年、2016年以降に売却した場合、土地部分の値上がり益には1000万まで 非課税となる)のオマケも、売却判断を後押しする材料になると考えます。
不動産価格は、もうしばらくは堅調に推移するものの、天井も意識する場面が出てきていると言っていいでしょう。2016年は、売りと買いが交錯する1年になっていくもの と考えています。
グラフD
グラフE

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